(特許温故知新)エジソンの蓄音機特許について

発明王といえばエジソンです。
エジソンは生涯で米国特許を1,093件、外国特許を1,239件取得しました。
また、ゼネラル・エレクトリック(GE)社の元となる会社の創業者でも有名です。

彼の発明は、蓄音機、白熱電球、キネトスコープ(映画の撮影・映写機)、カーボンマイクロホン(炭素送話器)・・と多岐にわたりますが、この中で、蓄音機の特許(米国特許200521)を紹介しましょう。

米国特許200521
発明者:トーマス・A・エジソン
発明の名称:蓄音機や音声機械の改良(IMPROVEMENT IN PHONOGRAPH OR SPEAKING MACHINES.)
目的:人間の声やその他の音を永久に記録し、そこからそれらの音を再現し、将来的に再び聞こえるようにする

米国特許200521 図1
米国特許200521の図1より

図の説明:
A:円筒
B:スピーキングチューブ
C:管
D:バネ
F:ダイアフラム
G:ダイアフラム
P:支持部

作用:
(1)記録
Aは、表面にへこむ素材(できれば金属箔)が設けられた円筒であり、回転する。
円筒Aは、回転すると回転中心軸方向に少しづつ移動するようにされている。
スピーキングチューブBに設けられたダイアフラムGは中央が固く(円筒A側に凸となるように)形成されており、円筒Aの表面に接している。
スピーキングチューブBに向かって声(音)を発すると、ダイアフラムGが振動し、その振動に応じて円筒Aの表面をへこませる。
円筒Aは回転しかつ軸方向に移動しているため、円筒Aの表面にはらせん状のへこみが形成される。
こうして、声(音)は、円筒A上にへこみのパターンとして記録される。
(2)再生
管CにはダイアフラムFが設けられている。
ダイアフラムFには、バネDが設けられ、バネDの先端は円筒A表面のらせん状のへこみに接している。
円筒Aは回転しているため、へこみのパターンに応じてバネDが振動し、その振動はダイアフラムFを震わせる。
こうして、円筒Aに刻まれたへこみのパターンが、管Cからの音となって再生される。

エジソンは若い頃、電信技師(オペレーター)としてモールス信号を送る電信会社や鉄道会社で働いていました。
モールス信号は人の手で打っていましたから送信速度をそれほど大きくはできませんでした。
そこで、エジソンは、より高速に信号を送るため、(ドット'・'とダッシュ'-'からなる)モールス信号を紙テープ(穿孔テープ)に記録して、それを高速に動かして送る高速自動電信機を開発しました。
そして、この開発の過程で、モールス信号を記録したテープの表面をなぞった際に音が発生することに気づいたのです。
この知見から、積極的に音声の記録・再生をする本願の発明に至ったということのようです[2]
実際、上記した米国特許200521の明細書には、
「モールス式記録器にあるような狭い帯を、打点に接触させた状態で動かすことで、そこから音を再生することができる。(・・・a narrow strip like that in a Morse register may be moved in contact with the indentingpoint, and from this the sounds may be reproduced.)」
との記載があります。紙テープからの音の発生は、エジソンにとって印象深い出来事だったのでしょう。

ところで、エジソンは、発明はしたものの、これに適した応用には自信が持てなかったようです。
そのため、様々な応用例を提案しています。
手紙の執筆と代筆(口述筆記目的)、
盲人のための音読本、
弁論術の教育(自分の話し方の録音)、
音楽の再生・・等々。
音楽再生は優先順位のさほど高くない応用例の一つに過ぎなかったのです。

現代人は、レコード及びそのプレーヤーを使った音楽再生技術は巨大な市場を形成し、自宅で演奏家不在の状況で音楽を楽しむという文化をも生み出したことを知っていますが、当時は、発明者のエジソンでさえも、大成功する発明だとは思ってはいなかったようです。

「必要は発明の母である」というのは、「発明の動機」や「発明が生まれる背景」を説明する言葉として有名ですが、ことエジソンの蓄音機の発明に限って言えばこれは当てはまりません。
まず発明し、その後で応用を考え、人々にそれが必要であると思わせる・・通常のアプローチとは逆のステップを踏んだ発明なのです。

無から有を生むような大発明は意外とこのパターンが多いのかもしれません。

<参考文献>
[1]米国特許200521
[2]名和小太郎,「起業家エジソン 知的財産・システム・市場開発」,朝日新聞出版,2001