ペロブスカイト太陽電池について

政府は、温室効果ガスの排出削減計画[1]を掲げ、それを実現するための方策の一つとしてペロブスカイト太陽電池の開発の支援と、その導入[2][3]を行うこととしています。

太陽電池は、クリーンエネルギーの代表として我が国においてもすでに多くが導入されていますが、そのほとんどがシリコン太陽電池です(市場の95%)[4]
シリコン太陽電池のサプライヤーは中国に偏在しており、圧倒的なコスト競争力を持っているため、これから日本の企業がその牙城を崩すのは困難です。
また、シリコン太陽電池には、曲げられない、それなりの厚さが必要であり重い、といった、用途によっては欠点となる性質があります。
さらに、シリコン太陽電池は、多結晶シリコンのインゴットを作り、それをスライスし、リン(P)などのn型不純物を熱拡散させるという製造工程を経る必要があり、それが今以上のコスト削減を阻んでいます。

そんな、背景のもと注目を集めているがペロブスカイト太陽電池です。
基板に可とう性のフィルムが使用でき、塗布によって作成できるため、曲げられる、薄くて軽い、といった点でシリコン太陽電池の欠点を克服できると考えられています。また、生産量が増大すれば、シリコン太陽電池と伍していける価格が実現できると考えられており[5]、ペロブスカイト太陽電池がシリコン太陽電池以上のエネルギー変換効率を達成できることが報告され[6]実用化に拍車がかかってきました。
さらに、ペロブスカイト太陽電池の発明が日本人によってなされたことが、日本がこの技術で世界をリードしたいと考える動機となっているに違いありません。

ペロブスカイト太陽電池とはどのようなものなのでしょうか。
ペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイトという結晶構造[6]を持つ材料を用いた太陽電池のことです。
ペロブスカイト太陽電池に使われるペロブスカイト化合物として最も有名なCHNHPbIを例にとって結晶構造を示すと下図のようになります。


ペロブスカイト構造

これは粉末状の固体ですが、溶剤に溶かせば簡単に塗布して薄膜化することができます。

次に、ペロブスカイト太陽電池の一般的な構成を以下に示します[6]



太陽電池層構成

光吸収層であるペロブスカイト層を、電子輸送層と正孔輸送層で挟み、さらにそれを少なくとも一方を透明にした電極層で挟みます。
この層構成のものは好みの基板に形成することができ、基板に樹脂フィルムを採用すれば可とう性のペロブスカイト太陽電池が完成します。

ペロブスカイト太陽電池の最初の発明は、桐蔭横浜大学特任教授の宮坂力氏によってなされたとされています。
その後、桐蔭横浜大学は、ベンチャー企業「ペクセル・テクノロジーズ」を立ち上げ、ペロブスカイト太陽電池 の成膜技術を安定させる自動化技術を開発しています。

ペクセル・テクノロジーズ社の特許出願のうち初期の頃に出願され特許となった 特許第6031656号を簡単に紹介します[7]

【特許番号】特許第6031656号
【発明の名称】ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子およびその製造方法
【特許権者】 ペクセル・テクノロジーズ株式会社

【特許請求の範囲】【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板上に形成された透明電極層からなる一対の透明電極基板間に光電変換層を有する光電変換素子であって、
前記光電変換層が前記電極基板上に、
下記一般式(1)または(2)のいずれかに示す有機無機混成ペロブスカイト化合物Aを塗膜形成した薄膜である第1半導体層と、
下記一般式(3)に示す無機ペロブスカイト化合物Bおよび/または下記一般式(4)若しくは(5)に示す有機無機混成ペロブスカイト化合物Cを塗膜形成した薄膜である第2半導体層とを、
平面ヘテロ接合したものであることを特徴とする固体接合型光電変換素子。
CHNH      (1)
(式中、Mは、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
(RNH14    (2)
(式中、Rは炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基または芳香族複素環基であり、Mは、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
CsM             (3)
(式中、M2は、2価の金属イオンであり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
  CHNHSnX3      (4)
(式中、Xは、F,Cl,Br,Iである。)
 (R2NH2SnX4    (5)
(式中、R2は炭素数2以上のアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、複素環基または芳香族複素環基であり、Xは、F,Cl,Br,Iである。)

【請求項2】~【請求項5】省略

固体接合型光電変換素子の構成は以下の通りです。

特許第6031656の図1より

1      光電変換素子
2      透明電極基板
21    透明基板
22    透明導電層
3      光電変換層
4      第1半導体層(有機無機混成ペロブスカイト化合物A)    
5      第2半導体層(無機ペロブスカイト化合物B/有機無機混成ペロブスカイト化合物C)  
6      バッファ層
7      封止層
8      取出し電極
9      集電線
10    固体接合型光電変換素子のセル

この発明のポイントは、ペロブスカイト化合物からなる層が 第1半導体層(有機無機混成ペロブスカイト化合物A) と、第2半導体層(無機ペロブスカイト化合物B/有機無機混成ペロブスカイト化合物C)の2層からなっていることです。ここで、第1半導体層は、n型半導体特性に近い機能を有するもの であり、第2半導体層は、p型半導体特性に近い機能を有するもの であるようです。
pn接合を導入することで、エネルギー変換効率が改善するのでしょう。

最後に、他国の特許出願の状況を見ておきましょう。
ペロブスカイト太陽電池関連の特許庁の資料[8]から、パテントファミリー(PF)件数上位出願人ランキング(2009-2022年)を抜粋します。



パテントファミリー(PF)件数上位出願人ランキング

(注)
これは、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願(WOと略記する)及び日本、米国、欧州、中国、韓国(日米欧中韓と略称する)への、登録特許を含む特許出願から抽出されたデータです。
パテントファミリーとは、一つの技術的発明を基に、複数国へ関連付けて行われた一連の特許出願をまとめたもので、パテントファミリー(PF)件数とは、そのファミリーの数を数えた件数のことを意味します。例えば、日本でAという特許出願をし、それと同一の内容を(優先権を主張して)米国にA’、欧州にA”として出願した場合、特許出願としては3件ですが、パテントファミリーとしては1件とカウントします。

この表からわかるのは、ペロブスカイト太陽電池に関しても中国勢が積極的に特許出願をしていることです。日本の企業も負けずに頑張ってほしいものです。

<参考文献>
[1]地球温暖化対策計画(令和3年10月22日閣議決定)環境省
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/211022.html
[2]グリーンイノベーション基金事業「次世代型太陽電池の開発/次世代型タンデム太陽電池量産技術実証事業」を新たに開始しました 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101909.html
[3]政府実行計画の見直しについて 環境省
https://www.env.go.jp/content/000322085.pdf
[4]「次世代型太陽電池戦略」 次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/perovskite_solar_cell/pdf/20241128_1.pdf
[5]次世代型太陽電池の開発 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
https://green-innovation.nedo.go.jp/project/next-generation-solar-cells/
[6]「ペロブスカイト太陽電池の構造と発電メカニズム」株式会社エネコートテクノロジーズのホームページContentsより
https://enecoat.com/contents/%E3%83%9A%E3%83%AD%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%88%E5%A4%AA%E9%99%BD%E9%9B%BB%E6%B1%A0%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%81%A8%E7%99%BA%E9%9B%BB%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0/
[7]特許第6031656号
[8]令和6年度  特許出願技術動向調査報告書(要約) -ペロブスカイト太陽電池関連技術- 特許庁
https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/2024_01.pdf