「磁線を活用し鉄粉をフィルターにする精密2次ろ過装置」に関して
公益財団法人 日本発明振興協会と日刊工業新聞が共催する第50回(2024年度)発明大賞において、「磁線を活用し鉄粉をフィルターにする精密2次ろ過装置」(有限会社ショウナンエンジニアリング)が「発明大賞 本賞」を受賞しました。
特許情報プラットフォームJ-Plat Patにて「ショウナンエンジニアリング」で検索(2025.7.8現在)し、ヒットした特許・実用新案のうち上記「磁線を活用し鉄粉をフィルターにする精密2次ろ過装置」に関係すると考えられる 特許6086928 について解説します。
発明の名称は「磁気インラインフィルター」です。
「磁気インラインフィルター」は、工作機械において、クーラント(液)を加工部等に供給する配管経路の途中に配置され、工作部分で発生した切屑(切削粉)等を効率よく除去するものです。
従来は、定期的な交換が必要な紙製もしくは布製の濾過式フィルタを使っていましたが、それが不要になるというメリットがあります。
「磁気インラインフィルター」の構成を下図(図3、図4、特許6086928の図3、図4に対応しています)にて説明します。図3
図4
磁気インラインフィルタ10には、内管1と外管2で形成される空間31にクーラント(切屑が混入した汚水)を導入する導入口21と、空間31で浄化されたクーラントを加工部に供給する供給口22が形成されています。
さらに、磁気インラインフィルタ10は、内管1の内周面に配置された内周面側磁石4と、外管2の外周面に配置された外周面側磁石5と、内周面側磁石4及び外周面側磁石5を軸方向に移動させる相対駆動手段6等で構成されています。
内周面側磁石4と外周面側磁石5は、異なる極性で対向して配置しているため、磁性体である切屑は、(空間31内において)内周面側磁石4と外周面側磁石5の間でブリッジを形成します。そうすると、ブリッジした切屑の隙間にクーラントが通過することとなり、それによって、精密な濾過が可能になります。
すなわち、磁気力で拘束した切屑以外のものまで濾過が可能になります。
(発明のポイント1)切屑をブリッジさせる。これによって、切屑に加えて、ブリッジした切屑以外の屑をも濾過する。
工作物の加工が終了したら、内周面側磁石4と外周面側磁石5を空間31から遠ざけられた位置にします(図11参照、特許6086928の図11に対応しています)。図11
そうすると、空間31に作用する磁力が無くなり、切屑は、空間31の壁面から離脱し易くなります。
磁気インラインフィルタ10には切換え弁231が設けられており、切換え弁231のソレノイドを作動し、排出口23をクーラントタンク側の(図示しない)クーラント回収部に連通させ、空間31の壁面から離脱した切屑をクーラント回収部に排出します。
このように構成することによって、切屑を濃縮して排出できるため、ペーパーフィルタ等の消耗品が不要となり、ランニングコストが削減されるものと考えられます。
(発明のポイント2)切屑に作用する磁力を消滅させる。これによって、ペーパーフィルタ等の消耗品を使用せず切屑の回収を可能とした。
単に、磁石によって切屑を引き寄せて回収するだけであれば容易に考えつきそうですが、精密な濾過と繰り返し使用を可能とするために、上記発明のポイント1および2を備えた点において、当業者であっても容易に考えつかない技術であると考えます。
有限会社ショウナンエンジニアリング様のホームページの製品情報には、マグネットインラインフィルターが記載されています。
マグネットインラインフィルターの特徴として「強力なマグネットの磁力を利用し、液中に混在する細かい鉄紛をフィルター素材とすることで優れた精密ろ過をします。電力、フィルタリング機材等の消耗品を使用しないため、設置後、速やかに効果を発揮します。フィルターの清掃は短時間かつ簡単に行えます。」との記載がありました。
<追記>
発明者が創出した独創的な技術を特許で保護するのは、
- 発明の独占的な権利を得る
- 経済的利益を確保する(製品やサービスの差別化、ライセンス収入、事業拡大や資金調達)
- 技術の模倣を防ぐ
- 技術的信用の証明(発明者や企業の技術力の高さのアピール)
のためです。皆様も特許出願を検討してみてはいかがでしょうか。
<参考>
[1]https://biz.nikkan.co.jp/html/hatsumei/vol50.html
第50 回 (令和6年度) 発明大賞 本賞 「磁線を活用し鉄粉をフィルターにする精密2次ろ過装置」
[2]特許6086928
[3]https://shounan-e.com/products/
限会社ショウナンエンジニアリングのホームページ 製品情報のページ